最相葉月著「絶対音感」を読了した
本の大まかな内容は、音楽に素養がない記者が、絶対音感の言葉の響きに惹かれて解明しようとした努力の軌跡である。まとめると、
・絶対音感の定義は曖昧だが、その中でもレベルがある
・相対音感教育もあわせてすべき
・後藤みどりのルポ
といったところかな。とにかく、取材した順に並べてるんじゃないかというくらい読み辛いのだが、面白いところもいくつかあった。
著者の分からないものを分からないままに、研究者や音楽家の言葉を集めて語る手法は、研究をかじったことがあるものならムズムズするに違いない。特に、○○学者や音響学会の名前を出すことで、権威付をして引用をする姿勢は記者独特というか、学術的でないために耐えるのが辛かった。そして、後藤みどりのルポの生き生きとしていること!彼女の書きたかったところはここなのだと読み解けて、逆にほっとした。
と、苦言ばかりもなんなので、この本を読んでよかった点を。
1.音楽家や研究者の言葉を豊富に集めてあること
これだけの量の文献や取材をするのは相当骨が折れたに違いない。著者の知識不足や教養不足による、切り貼りの下手さが目立っても、やはり集められた言葉自体には重みがあります。佐渡裕氏の言葉はいちいち興味深いです。
2.絶対音感教育の歴史が知れたこと
特に、戦時中の戦闘機の音の弁別のために利用されようとしていたというエピソードは、普段の音楽に触れる生活では得られないと思います。
3.絶対音感のカテゴリがぼんやり見えてきたこと
絶対音感のカテゴリとしては、音名がなんとなく分かるという人、それが左脳で言語のように理解できる人、覚えた音とピッチがずれると気になる人、そうでない人、という感じだと思います。
絶対音感教育のやり方を読むと、実は絶対音感を教えるときは和音で教えてしまうというのが驚きでした。むしろ、習わないJAZZや不協和音などからは普通と同じように分析的に聴くしかないということ。つまり、パターン認識の学習をさせてるだけだということになるのではないかと思うと、機械でも面白いことができないかなと思ってしまいます。
関屋晋の「だいたい音感」をふと思い出しまた。
音楽、音響とかの予備知識があると怪しい記述にうんざりしますが、普段なかなか読めない武満徹氏や佐渡裕氏の言葉やエピソードち触れられるという意味では楽しい本でした。ただ、著者がよく分かっていないことを、人の言葉を借りて切り貼りしてるだけなので、知ってる人はイライラ、知らない人はさっぱり分からない気もします。